逝きし友残る友あり夜の秋    河村 有弘

逝きし友残る友あり夜の秋    河村 有弘 『季のことば』  「夜の秋」というのは俳句独特の言い回しで、まだまだ暑さが残ってはいるが、夜になるとふと秋を感じるという晩夏の季語である。七月末から八月に入って早々、立秋直前の頃の夜分をいう、ごく短期間にしか通用しない季語である。大昔の和歌の時代は「秋の夜」と同義で用いられていたのが、いつの間にか夏の夜に感じる秋をいう季語になったという。  俳句の約束事をきっちり守ろうとすれば、この季語は非常に詠み難い。しかし、立秋を過ぎてもしばらくは使ってもいいのではなかろうか。八月も半ばを過ぎれば、夜間、雨戸を閉めようと窓を開けた時に、ふと秋を感じることがある。その辺まで句作のカレンダーを広げて、この素敵な季語を使ってもいいだろう。  八十路を越えると、これは仕方のないことなのだが、友人知己が次々に亡くなって行く。毎朝、真っ先に見るのが新聞の訃報欄というのが半ばくせにもなっている。あああの人も死んでしまったか、と、現役時代仕事の関係で付き合いのあった人のことを思い出す。時には近頃連絡の途絶えていた昔の仲間の訃報をメールで知らせてもらったりもする。「同期入社も半分以上居なくなってしまった」などとつぶやいている。そしてまだ生き残っている共通の友人にメールする。  というわけで、「逝きし友」との楽しかった思い出を「残る友」と語り合うことがしきりの今日このごろである。まさにこの句は「夜の秋」という季語の響き合いが絶妙である。 (水 22.09.01.)

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