スニーカー軍靴にさせじ敗戦忌 植村 方円
スニーカー軍靴にさせじ敗戦忌 植村 方円
『この一句』
スニーカーは、皮や合成繊維などで覆われたゴム底の運動靴のこと。英語のSneak(忍び寄る)が語源で、アメリカのプロバスケットの花形選手が履くようになって、1970年代後半から人気が出たという。日本でもその頃、チューリップという音楽グループの「虹とスニーカーの頃」という楽曲が発売され、ヒットした。以来、エアロビクスの普及やジョギング人気もあり、スニーカーブームは衰えをみせない。どころか、スポーツ用品メーカーが仕掛けたレアシューズの中には、価値が高騰し数10万円もする靴もあるそうだ。
翻って、当句会のメンバーに馴染みがあるのはズック靴だろう。綿や麻の厚手の布でできたゴム底の靴で、スニーカーという言葉が入ってくる前は、靴といえば革靴とズック靴しかなかった。今でも学校の上履きのことをズックという地域もあると聞くが、ズックを知らない若者も多いそうだ。
一方、軍靴は兵隊が履く軍用の靴のことで、戦争とは切っても切り離せない。自由、平和の象徴としての若者文化のひとつ、スニーカーを間違っても軍靴に履き替えさせてはならない、という切実な親心が実に明瞭に句に込められている。現にスニーカーを軍靴にさせてしまった国、させられてしまった国が戦争中の今、胸に響く一句だ。
(双 22.08.30.)