秋立つや鉄瓶の湯に鉄の味    今泉 而云

秋立つや鉄瓶の湯に鉄の味    今泉 而云 『合評会から』(番町喜楽会) 可升 ちょっと涼しくなったので、熱いお茶が飲みたくなり、鉄瓶を持ち出した。湧いた湯に鉄の味がした。ただそれだけの事だけれど、味のある俳句になっていると思いました。 迷哲 冷たいものばかり飲んでいた夏が終わり、温かいお茶が欲しい季節になった。味覚にも秋の鋭さが戻った。 而云(作者) 子供の頃のことです。婆さんのところへ行くと湯冷ましを飲まされるのだけど、鉄の味がして、これがまずいんだよねえ(笑)。           *       *       *  鉄瓶のお湯に鉄の味がしたのだと、ただ単にそう取ってはいけないのは当然である。立秋の日を舌で感じ取った俳句と受け止める。夏の間麦茶を鍋で煮出している家庭はいまだに少なくない。煎茶番茶の湯を沸かす鉄瓶を夏の間使わないのは一般的かもしれない。鉄瓶といえば冬の火鉢と一対のものだから。 まだまだ暑いが、久しく放っておいた鉄瓶を取り出して湯を沸かす。鋳物ゆえ中に多少の錆が残っていた。一応洗い流したのだが、使い古した鉄瓶の錆びは容易に取れない。茶を淹れてみたら、ちょっと鉄の味がしたという――。句の背景を筆者はこう取った。作者年少の頃の思い出とは思いが及ばなかった。季語「立秋」に付けるのに「鉄錆びの味」とは渋い。 (葉 22.08.16.)

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