熊谷に勝って伊勢崎冷やうどん 杉山 三薬
熊谷に勝って伊勢崎冷やうどん 杉山 三薬
『この一句』
選句表で見て思わず大笑いし、埼玉県民として迷わず点を入れた。今年の異常な猛暑を当意即妙に詠んだ時事句であり、リズムも楽しく、「冷やうどん」の季語がぴたりはまっている。
日本の最高気温は長い間、1933年に山形で記録した40.8度とされてきたが、2007年に埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市で40.9度を記録、74年ぶりに更新した。熊谷はその後も記録を更新、2018年に観測した41.1度が日本最高となり、日本一暑い町として全国的に知られている。
これまでの猛暑記録は7月、8月に観測されている。ところが今年は6月下旬から猛暑が続き、関東では6月27日に史上最短で梅雨が明けた。群馬県伊勢崎市では6月25日に40.2度を記録、6月として史上初の40度超えとなった。実はこれまでの6月の最高気温は、熊谷で2011年に記録した39.8度。伊勢崎が日本一の熊谷に「勝った」形となった。
掲句はこうした気象ニュースを踏まえたものだが、下五に「冷やうどん」を置いたところが心憎い。熊谷も伊勢崎も北関東のうどん文化圏に属する。古くからの小麦の産地で、祝い事や寄り合いの際は、うどんを打ってもてなす風習がある。猛暑記録で勝った負けたと揶揄しつつ、冷たいうどんで熱気を鎮めて仲を取り持つ。この夏しか賞味期限のない時事句かも知れないが、冷やうどんの味わいが心に残る句だ。
(迷 22.07.22.)