ゆるやかに水車は廻る夏の空   石丸 雅博

ゆるやかに水車は廻る夏の空   石丸 雅博 『この一句』  大きな水車はゴットン、ゴットンと緩やかに回る。小流れを利用してカラカラと早く回るのもあるが、やはり水車は見上げるほど大きなものがいい。例えば北斎の「富嶽三十六景」シリーズに「穏田の水車」という作がある。画面の左側に大きな水車の半分が描かれており、その高さは五㍍ほどになるだろう。近寄ればまさに見上げるほどの高さになるはずだ。  かつては低い流れを高所に揚げる揚水型や精米、製粉用など、農業、工業にさまざまな用途があったが、現代では観光用に動いているものが多いようだ。「おお、水車が回っているよ」と、観光客が寄ってきて、水のエネルギーに感嘆し、「あんな高くまで」と見上げ、落ちてくる水に目を見張る。水車たちはいまや、「それこそが我が本領」と考えているのだろう。 ハイカーたちが見に行く水車を考えてみよう。案内書に水車のある場所が示され、その横に蕎麦屋があったりする。野原の中や田畑に沿った道を行けば、やがて水車が見えてくる。近寄るごとに水車は大きくなり、目の前に見上げれば「こんなに大きいの!」と口をあんぐりして空を見上げる、ということになる。句の下五は、まさにそのような「夏の空」なのである。 (恂 22.07.14.)

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