椿の葉輝き増せる芒種かな 澤井 二堂
椿の葉輝き増せる芒種かな 澤井 二堂
『季のことば』
我が家の小庭に一本の実生の椿がある。この春の末、その椿を見上げ、昨年までとは何か違っている、と気づいた。これまでは年ごとに茶毒蛾の幼虫が発生、新芽を食い荒らされてしまうので、防虫剤散布が私の義務のようになっていた。それが今年、新芽はすでに成長し、緑色を深めて固く、蛾の幼虫など寄せ付けない状況なのだ。
そして六月初旬の句会の兼題に「芒種」という兼題が出て、大いに悩まされた。「芒(のぎ)のある穀物の種を播く時期」の意味で、二十四節気の一つだそうだ。歳時記的には重要な季語らしいが、都会住まいの者が腕を組み、頭を傾げても、いい句は生まれそうにない。そして句会に出て掲句を目にし「ガン」と一喝を食らった感じがした。
「そうか、これでいいのだ」と思った。「田植え」なら農村に行けば目にすることが出来るが、「芒種」では、いい材料になかなか出会えない。句の作者は植木鉢の椿に水をやりながら、この句を生み出したらしい。残念ながら選んだのは私一人だけだったが、永遠に忘れられない一句、と私は評価している。誰が何と言おうと。
(恂 22.06.27.)