白骨も不意に出てくる夏の山  藤野 十三妹

白骨も不意に出てくる夏の山  藤野 十三妹 『この一句』  選句表でこの句を見た時、句会で議論を呼ぶだろうと思いながら、ちょっと不気味な味わいに惹かれて点を入れた。句会では意外にも二点にとどまり、合評の対象とならないまま終わった。一見すると、山梨で三年前に行方不明となった女児の骨が見つかったニュースを踏まえた時事句と取れる。しかし何度か読むと、もう少し奥行きのある句ではないかと思えてくる。  手掛かりは「も」である。「白骨の」とすると、単なる時事句で終わってしまう。作者があえて「白骨も」としたのは、夏の山には、白骨以外にいろんなものが不意に出てくると言いたかったのではないか。例えば蛇や蛙、スズメバチあたりは結構現われる。突然の豪雨や山崩れだってある。冬山に比べ、安全で開放的といわれる夏山も、思いがけない危険をはらんでいるのだ。「不意に出てくる」のは人知の及ばない自然の力や運命であり、それに翻弄される人間社会を表現しているように思えてくる。  作者は現役の頃はコピーライターとして活躍したキャリアウーマンだが、近年は病気がちで句会への出席もままならない。さらに入院中の家族を看護する日々と聞く。人生の山谷にも思いがけない苦難が襲ってくる、そんな感慨が込められた「も」ではなかろうか。 (迷 22.06.16.)

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