新緑や弓引き絞り気を静む 池内 的中
新緑や弓引き絞り気を静む 池内 的中
『この一句』
弓道については素人だが、練習したり、試合したりの「射場」の様子は、テレビの映像などによって、おおよそ分かっているつもりだ。射手はまず、射場に立ち、近的の場合は二十八㍍先の的を見つめ、弓に矢をつがえ、引き絞り、気を鎮めるのだ。句はそこまでを詠んでいるのだが、俳句作品として最も重要な「新緑や」が上五に置かれている。
射場の多くは的までの空間に屋根はなく、壁などの仕切りもなく、空気(風)の通うオープンな場所である。射手の視界の端には外側の景色も当然、入ってくるはずだが、そこに視線を移すような場合ではない。視線は的に向け、視界の端に新緑を感じつつ、気持ちはもちろん前方に向けている。さて矢は、思い通りに的を捉えたのかどうか。
ここで不意に子供の頃に見た四コマのマンガを思い出した。一コマ目が「弓に矢をつがえ」。二コマ目が「満月のように引き絞り」。三コマは「ヒョウと放てば・・・」。そして最後の四コマ目は「矢は飛ばず」。ポトンと下に落ちてしまうのだ。しかし作者の矢は的の真ん中を見事に射抜いたに違いない。なにしろ俳号が「的中」なのだから。
(恂 22.06.01.)