雛納め今日の新聞敷き込みて   向井 愉里

雛納め今日の新聞敷き込みて   向井 愉里 『季のことば』  「雛納め」とは、文字通り雛祭の終わった後、雛人形を仕舞うこと。雛祭りが終わって、すぐに人形を仕舞わないと婚期が遅れるとも言われるが、だらしなさを戒める道徳的意味合いもあったとか。「飾りつけた日から奇数にあたる日を選ぶというが、そこまで神経を働かせる人がいるのかどうか。蕎麦をそなえ、食べてから納めるとも、ものの本には書いてある」――先日、亡くなった清水哲男という詩人が運営したウェブサイト『増殖する俳句歳時記』(2016年8月で終了)に載っていた「官女雛納め癖なるころび癖 岡田史乃」の句評の一部だ。人形には、どうしても魂を宿らせたくなるので、納める時も「ご苦労さま。また来年もよろしく」などと懇ろに扱う。儀式めいた雰囲気のある季語だ。  掲句は納める時に、湿気を取ったり防虫のため(効果のほどは微妙だが)新聞紙を敷き込んだ、という〝雛納あるある〟の一コマで、句会で人気を集めた。「今日」より「今朝」の方がいいのでは、との指摘があったが、作者によれば「さすがに今朝の新聞を使うのはちょっと」とリアルな反応。実は筆者も、まったく同じ作業をしたばかりなので、真っ先に採った。特に今年は、ロシアのウクライナ侵攻が連日、紙面に暗い影を落としていて、来年また飾るころは果たして情勢はどうなっているのだろうか、などと気遣いながら仕舞った。作者も同じ気持ちで〝今日(こんにち)〟の新聞とともに雛を納めたのだろう。 (双 22.03.27.)

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