雛祭次女が彼氏を連れて来た 旙山 芳之
雛祭次女が彼氏を連れて来た 旙山 芳之
『この一句』
娘が付き合っている相手を連れてくるという、家族にとっての〝大事件〟を詠んだ愉快な句である。彼氏とは単なるボーイフレンドか、あるいは結婚を考えている恋人なのか、想像は膨らむ。「連れて来た」という口語体の放り出すような語調が効果的で、家族、特に父親のあたふたぶりが浮かんでくる。添えられた雛祭の季語の華やかな雰囲気も加わり、春らしい一句となっている。日経俳句会の三月例会で最高点を得たのもうなずける。
句会では「次女が効いています。雛祭と次女、いいですね」(双歩)など、雛祭・次女・彼氏の組み合わせに新鮮味を感じ、点を入れた人が多かった。
作者は三人の娘の父で、これまでも娘のことを詠んだ句を寄せ、高点を得ている。三年前の「雛納め三人娘に会えぬまま」の句を皮切りに、「夜勤明けナース二年目初夏の風」、「娘らが帰ってこない晦日蕎麦」などと続く。いずれの句も娘の成長・自立を喜びながら、残される親の哀歓が漂う佳句である。
次女は看護師になって二、三年の働き盛りと聞いている。どんな彼氏を連れて来たのか、父親ならずとも気になる。詠まれた句を通じて作者の家族や人生が垣間見えるのも、句会俳句の味わいのひとつではなかろうか。今度は長女や三女を詠んだ句を期待したい。
(迷 22.03.25.)