地虫出づ椋鳥に遭ふ運不運    大澤 水牛

地虫出づ椋鳥に遭ふ運不運    大澤 水牛 『この一句』  地虫の一生に運や不運があるか。思いもよらぬ命題を示した一句である。 地虫とは冬、地中に居るから、そう呼んだという説もあるが、カブトムシや コガネムシなど諸々の昆虫を言う。  三月上旬、大地の温もりとともに地中の虫が地上に這い出てくる。 「啓蟄」である。全国どこでも見かける留鳥の椋鳥は、三月から七月が繁殖期。 虫の這い出る頃は、この鳥にとって最高の捕食シーズンである。  長野県上田市の米作地帯にある我が家の庭では、椋鳥が頻繁に舞い降りる。 繁殖期の椋鳥は番で行動し、虫を狙うときは単独行動。庭木の根元などの枯葉を 嘴で払いのけながら、歩き回る。土をつつき、速足で歩き枯葉をはねのける。 忙しない捕食活動はなかなか愛嬌がある。  地虫の方は空が見えたら即、嘴の中。瞬間で生死が決まる。捕食の瞬間を みたことはないが、これは椋鳥の「ツキ」の世界だろう。  椋鳥は繁殖期が過ぎると大集団を形成して市街地の街路樹などをねぐらにする。 JR新幹線上田駅前の広場では、一時街路樹に椋鳥が住み着いた。万羽単位の鳴 き声はすさまじく「糞害」も激しい。木々にネットをかぶせ、いまでは「糞撃」 被害を避けている。  椋鳥はひところは害虫を捕食する益鳥だったが、平成6年(1994)ごろから狩猟 鳥となった。地虫を探して頭振り振り可愛い鳥だが、これが野鳥料理になるのやら。 (て 22.03.17.)

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