眼鏡掛け眼鏡を探す朧月 久保田 操
眼鏡掛け眼鏡を探す朧月 久保田 操
『合評会から』(日経俳句会)
方円 私も同様の経験があります。一時間もかけて探したけれど見つからない。あした新しいのを買えばいいやと割り切って寝ようとベッドに倒れたら……。
明生 高齢者にはしょっちゅう出てくる話題なので迷いましたが、「朧月」をもってきたのが面白いと。
ヲブラダ まさに「あるある」ですね。「朧月」がオチになっています。
水馬 よくあるテーマと思いましたが、「朧月」を付けたのがなんだか可笑しくて。
愉里 掛けているはずなのに触って確かめるのが年中です。季語が心情に合っています。
* * *
後期高齢者ならずとも、この経験をしたことのない人はまずいまい。探す眼鏡が自分の頭にあったり、甚だしいのは現に掛けているのに「どこだ」と探し回ったりする。この句は後者で、定番とも言えそうな句ながら〝同病〟相哀れむ句友から支持を得た。年を取るとともに記憶力の減退はしかたがない。だが哀しい老年の現実を句にするにはなにか新奇性がなければ陳腐のままである。この句の肝は、選句者たちが口を揃えて言うように「朧月」に尽きる。月に暈がかかったような自分の目を嘲りながら、反面笑い飛ばす雰囲気をもたらし、この季語がそれを助けている。
(葉 22.02.23.)