汁物にとろみをつけて春の雪 星川 水兎
汁物にとろみをつけて春の雪 星川 水兎
『この一句』
「こんな寒い晩は餡掛豆腐がいいね」なんて言ってるのかも知れない。春雪の晩ごはん時が浮かんで来る。ほのぼのとした温かい気分になる句である。
日本料理の汁、中華料理の湯(たん)、西洋料理のスープ。いずれにも澄んださらりとしたものと、とろみを付けたものとがある。どちらも四季を問わずに供されるのだが、寒い冬場はとろみのついたものが好まれる。日本料理の懐石膳は冬場でも汁はお清ましで、煮物にとろみを付けたものが登場することが多いが、それも「冬場のとろみ汁」の一種と言っていい。
冬のとろみ料理と言えば真っ先に上がるのが加賀の「治部煮」であろう。鴨肉に小麦粉をまぶして椎茸や筍、加賀名物の簾麩などとの炊き合わせである。とろんとした甘辛だれがまとわりついた鴨肉を噛むと、じゅわっと湧き出す旨味がなんとも言えない。簾で巻いた痕がぎざぎざついている簾麩の噛みごたえがまたとてもいい。北陸の冬は一度行っただけでもうたくさんという感じだが、食べ物だけは何度でも結構である。
水牛の好きな餡掛け豆腐。これには絹ごし豆腐が似合う。さっと湯通しした豆腐に葛餡を掛けるごく単純な料理だから、良い豆腐でなければ話にならないが、餡の素になる出汁で勝負が決まる。いい昆布を三時間ほど浸し、それを沸騰寸前まで沸かして昆布を引き上げ、削り節を入れて沸騰させ、すぐに火を止める。漉した出汁に酒、みりん、醤油を入れ、水溶き片栗粉を入れてとろみをつけて出来上がり。これには冬場で…