灯のともる砂町銀座春の雪 廣田 可升
灯のともる砂町銀座春の雪 廣田 可升
『この一句』
滝田ゆうという漫画家がいた。二十年前ほどに亡くなったようだ。昭和の世相や暮らしを独特の朦朧としたタッチで描いて好きな作者だった。昭和三、四十年代から五十年代までが全盛期だと記憶しているが、着物に坊主頭丸眼鏡のいで立ちを思い出されて懐かしい。庶民の生活とはこういうものだ、そう言いたいような漫画を読むたびほのぼのとした。また下町・下谷の生まれらしく、怪しげな美女が裏路地から手招きするような漫画も得意中の得意。
この句の舞台、砂町銀座は下町銀座の代表格だ。砂町はもともと江戸時代の開発者・砂村新左衛門一族の名にちなむ。昔から陸の孤島のような不便な土地で今もアクセスはよくない。そこに下町人が愛してやまない小店が二百近く軒を並べていつも繁盛している。夕飯の総菜ならおまかせ、ことにおでんや焼き鳥が好評で近隣からの主婦らであふれかえる。
夕方ともなればポツリポツリと灯がともり、情緒満点の昭和が出現する。「春の雪」をもって来て、ずるいくらいのいい景色である。筆者が滝田ゆう漫画を思い浮かべたのは、とうぜんの成り行きだ。この句は「砂町銀座」でなくてはいけない。都内第一号の銀座と名の付く商店街とはいえ「戸越銀座」では興趣が失われるに違いない。
(葉 22.02.20.)