円墳の形のままに草芽ぐむ 中村 迷哲
円墳の形のままに草芽ぐむ 中村 迷哲
『合評会から』(番町喜楽会)
喩里 冬の間はあまりはっきりしない円墳が、草が芽吹いて緑が濃くなり、くっきりと現れてくる光景を思い浮かべました。
水牛 若緑のまあるい小山が見えます。実にのどかでおおらかな感じの句です。
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私事ながら、筆者は堺市の大山古墳(仁徳天皇陵古墳)のすぐ側で生まれ、古墳と言えば巨大な前方後円墳が当たり前であった。ところが、その全容は映像でしか見たことがなく、ただ濠と森や遥拝所が見えるだけで、視覚的にはまったく味気ないものであった。
その点、ここに詠まれた円墳は全国でもっとも多く作られ、小ぶりであるために全容が手に取るように見え、よく手入れされた古墳は実に姿かたちが優美で、なかには古墳に登れるようになっているところもある。実にフレンドリーな古墳である。
この句は、なんと言っても「形のままに草芽ぐむ」の表現が秀逸である。この表現によって、動かないはずの円墳が若緑の塊となって浮かび上がってくるような錯覚すら覚える。余計な説明などしないからこそ、柄の大きな秀句が誕生したように思う。
(可 22.02.17.)