薄墨の写経さはさは春の雪 金田 青水
薄墨の写経さはさは春の雪 金田 青水
『この一句』
一読、「おや、懐かしい」と思った。この句は「薄墨の写経」と「春の雪」との「取り合わせ」である。二つの概念がぶつかり合うという意味からかつては「二物衝撃」とか「二句一章」などとも言われた。それらは一句中の「切れ」に関わる俳句の構造論に由来しており、ひと頃は句会後の席などで、しばしば議論が戦わされていたものだ。
そして掲句は「二物」の間に「さはさは」という擬音語を置いた。薄墨の写経は「さはさは」、春の雪も「さはさは」。この擬音語によって二物衝撃のぎこちなさを薄め、いかにも薄墨風、写経風の、春の雪との取り合わせを成立させている。こうしてみると掲句は実に技巧的であり、見事な出来映えの俳句作品と評すべきかも知れない。
近年、句会などで俳句の構造論などを聞くことがない。「二物衝撃」などと言い出せば「何ソレ」という反応が返ってきそうである。そんなことから私は、薄墨の写経と春の雪の間に「さはさは」を置いた句を題材に、どなたかと俳句の取り合わせ論などを語り合ってみたい、と思うのだ。いかがでしょうか、皆様。
(恂 22.02.13.)