全山の音とじ込めて滝凍る    中村 迷哲

全山の音とじ込めて滝凍る    中村 迷哲 『合評会から』(番町喜楽会) 木葉 この滝の響きは全山唯一の音だったのだろう。それが消え去ってしまって・・・ 光迷 厳しい冬の山の様子をよく捉えている。 春陽子 山奥の誰も訪れないような滝が凍ってしまった、という状況がよく分かる。 而云 滝の音の絶えた静寂を、実にしっかりと詠んでいます。 可升 上手いなぁ。作者の代表句になるのではないかな。 双歩 類句がありそうだ、とは思うが、読んで心地がいい、という句ですね。           *       *       *  作者は何年か前、秩父の山奥で凍った滝に出会った時の雰囲気を思い起こし、句にしたという。「全山の音とじ込めて・・・」。実際は樹々の風に揺れる音くらいは聞こえていたはずである。しかし滝が凍り付き、巨大な抽象彫刻の作品となって眼前に屹立しているのに出会い、周囲から全ての音が消え去ってしまったのだ。  私はかつて中国河南省の山奥で、垂直に三百㍍余りも落ちる滝を見上げたことがある。六月のことで、汗を拭きながらであった。掲句を見たとたん、私はごく自然に、あの中国の大滝が凍り付いた様子を思い描いていた。俳句は僅か十七音。たったそれだけの語が、とてつもないスケールを描き得ることに気づいた次第である。 (恂 22.02.10.)

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