しつけ解く祖母の笑顔や針供養  向井 愉里

しつけ解く祖母の笑顔や針供養  向井 愉里 『季のことば』  針供養とは「平素使っている針を休め、折れた古い針を供養する行事」(角川歳時記)。古針を豆腐や蒟蒻に刺して供養し、裁縫の上達を願う風習が各地に残る。テレビのニュース番組で若い女性が神社などで豆腐に針を刺している映像を目にすることもある。関東では二月八日が針供養の日とされ、春の季語となるが、関西は十二月八日に行うところが多く冬の季語となる。針祭や針納、納め針なども同類の季語である。  掲句はその針供養に祖母の思い出を重ねている。おばあちゃんが孫に新しい着物を着せながら、しつけ糸を外している情景であろう。「仕付け」とは着物を縫う時に、本縫の目安となるように白い糸などで仮縫をしておくことをいう。おそらくは自分で仕立てたであろう晴着を孫に着せる嬉しさと、孫の成長を喜ぶ気持ちが笑顔となって表れている。仕付けと針供養が近すぎるのではないか、との指摘もあったが、「なじみの薄い季語を取り上げ、うまく詠んだ」など評価する声が多かった。  句会での作者の弁によれば、着物をたくさん縫ってくれた祖母の思い出とともに、自分も娘のバレーの衣装などを懸命に手作りした体験を思い起こしながら詠んだ句という。作者は娘二人に恵まれ、自ら「女系家族」と称している。祖母から母、母から作者へと伝えられた裁縫の技術と愛情は、作者から娘へと間違いなく伝わっているであろう。 (迷 22.02.08.)

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