草の芽やちび怪獣に歯が生えた  谷川 水馬

草の芽やちび怪獣に歯が生えた  谷川 水馬 『この一句』  「ちび怪獣」と聞いてすぐ、絵本の『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック著、神宮輝夫訳)を思い出した。世界で約2千万部、日本でも約百万部売れたというベストセラーなので、目にしたことがある人は多いと思う。絵本の主人公、マックスは大のいたずらっ子。ある晩、狼の着ぐるみ姿で大暴れしたマックスは、お母さんに「この、かいじゅう!」と怒られて、夕食抜きで寝室に放り込まれる。そこから彼の冒険が始まる。怪獣たちの棲む島へ渡り、いろんな怪獣を手懐け王となって遊んだりしたものの、ホームシックになって……、というような内容だ。  そう、洋の東西を問わず、親にとって子供はみんなかわいい「怪獣」なのだ。この句の「ちび怪獣」は作者の孫かもしれないが、幼子に歯が生えてきたらしい。生え始めはむず痒いので「歯固め」を与えたりもする。歯茎からちょっと覗く歯と、土から顔を出したばかりの草の芽とを対比させ、なんとも微笑ましい。有名な「万緑の中や吾子の歯生えそむる」(中村草田男)にも通底する、生命力あふれる一句だ。 (双 22.02.07.)

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