ウイスキー追って胃の腑へ寒の水 徳永 木葉

ウイスキー追って胃の腑へ寒の水 徳永 木葉 『季のことば』  今年は正月明けの5日から寒に入った。20日に大寒を迎え、2月3日の節分までの約ひと月が寒の内だ。暦通りの寒い日が続き、寒中見舞いの葉書が届いたりする。寒中に汲んだ水を「寒の水」といい、霊力があり薬効があると尊ばれたそうだ(「寒」および「寒の水」は、当サイトの「水牛歳時記」に詳しい)。確かにただの水道水も寒中に飲むと、なんとなく背筋が伸びる気がする。「寒の水」の兼題に投句された内容は、飲用水派と米を研いだり、手水を使ったりの飲用以外派に別れた。掲句の作者はウイスキーをストレートで飲み、チェイサーとして寒の水を添えている。  ウイスキーなどアルコール度の強い酒を飲むときに、追いかける(chase)ように飲むのがチェイサーだ。若いころ、先輩に連れられて入ったバーで、チェイサーという言葉を初めて聞いた。意味を尋ねたら「カーチェイスと同じで、追っかけるという意味」だと言う。ちょうどその頃、「フレンチコネクション」という映画で、凄まじいカーチェイスを観たばかりだったので、妙に納得した覚えがある。  「追って胃の腑へ」の措辞がこの句の魅力で、ウイスキーを追いかけて寒の水が胃へと注がれる様が、実感を伴って伝わる。今は居酒屋で焼酎を好む作者だが、かつてはカウンターに留まってウイスキーをダブルで、というスタイルだったのだろう。 (双 22.02.01.)

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