冬の日や賽の河原の石の音   谷川 水馬

冬の日や賽の河原の石の音   谷川 水馬 『この一句』  不思議な句である。理詰めに考えると、よくわからない句なのだが、なんとなく分かるような気になってくるのが不思議なのである。  そもそも「賽の河原」など誰も見たことはない。人が死ぬと冥途への旅で三途の川を渡るのだが、その手前に賽の河原がある。そこでは幼くして死んだ子供が親不孝という大罪を償うために、「一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため」と詠いながら河原の石を積んで仏塔を作り、親不孝を詫びる。すると鬼たちが出てきて、せっかく積んだ石を突き崩してしまう。子どもたちは泣きながらまた積み直す。すると又、鬼どもが突き崩す。最後には地蔵菩薩が現れて鬼どもを追い払うという「救い」があるのだが、とにかく死にたくもないのに死んでしまった幼児をさらに苛めるという残酷物語だ。  これは正統な仏教経典には無く、中世日本で生まれた説話のようだ。夭逝した子はあの世へ行ってもなかなか浮かばれない、だから心して幼児を亡くすことのないように気をつけよ、という親に対する教訓なのか。  この句は、その石積みの音、突き崩される石の音が聞こえるというのだ。なんとも寒々しい。作者の心に何らかの屈託があったのかも知れない。冬の日の夕暮れ、ぐんと冷え込んできた中で、転がる石の音が響いたのかもしれない。 (水 22.01.13.)

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