暗闇にマスクが並ぶロードショー 深田森太郎
暗闇にマスクが並ぶロードショー 深田森太郎
『合評会から』(日経俳句会)
芳之 この通りなんでしょう、ずっと映画館には行っていませんが。
双歩 「ロードショー」なんて今は言いませんが、古めかしさの中に今日の状況を詠ってます。
明古 映画館の暗闇に白いマスクが浮かび上がる。
静舟 気が付くと暗闇にみなマスク。これがコロナ下の新常態なのかとあらためて思う。
* * *
ロードショーとは、映画の全盛期には洋画を東京、大阪など都市部で先行上映することを指した。その後、大作映画を全国の特定館で先行上映する「全国ローショー」形式が普及し、今は映画の初公開(封切り)の意味で使われることが多いという。
掲句の作者は往年の映画ファンであろう。話題の新作映画を見ようと久しぶりに映画館に出かけた。ふと館内を見渡すと観客は皆マスクを付け、暗闇に白いマスクが浮き上がって並んでいる。ロードショーの下五まで読み終えると、なにやらホラー映画の場面のような雰囲気が漂う。新型コロナに怯え、息をひそめて暮らすこの二年は、映画であれば救われるが、進行中の現実である。
作者は日経俳句会の古くからのメンバーだが、この二年半ほど投句がなく、体調を崩されたのではないかと心配していた。コロナ社会の断面を鋭く切り取った句の切れ味に、「まだまだ元気だよ」と確かな便りを頂いた気分である。
(迷 21.12.23.)