急峻の真田本城虎落笛 堤 てる夫
急峻の真田本城虎落笛 堤 てる夫
『季のことば』
真田本城というから、上田市内の上田城を思った句友もいた。筆者もそう思ってしまった。上田城には急峻というイメージが薄いせいで、この句を採りあぐねてしまった。合評の場になって、採った句友は真田の本城(地元では「ほんじろ」と呼ぶらしい)と正しく理解していた。幸村の父昌幸が上田城を築くまで真田三代の本拠だったという。うかつにも十年程前に大勢で吟行に行ったことを忘れてしまっていたのだ。
真田氏の発祥の地・真田の郷から背後の山を登ると馬の背の道になる。その峰々の平らな一角に主郭跡がある。たしかに山城だけに「急峻」といっていい。そこから向かいを見渡すと3キロ先の峰には難攻不落の支城砥石城跡が見え、真田一族のみごとな戦術眼をしのんだことを思い出した。
「虎落笛」という季語、現代ではなじみが薄い。自然に乏しい都会や木柵や竹垣などが珍しい今では、虎落笛を聞いたこともない向きが大方だろう。作者によると、虎落笛には戦のイメージが付きまとうような思い込みがあるという。地元・上田在住ゆえにか、季語と真田の山城を結びつけるこの句が生まれた。真田一族の波瀾万丈の歴史に痛快さを覚えるファンは多い。「真田本城」の文字を見ただけでこの句を採らざるを得ないという句友もいた。法螺貝の遠音がボーボーと聞こえるような「虎落笛」の句だ。
(葉 21.12.03.)