宇宙屑海に落ちしは牡蠣の殻 中嶋 阿猿
宇宙屑海に落ちしは牡蠣の殻 中嶋 阿猿
『この一句』
日経俳句会11月例会「牡蠣」の兼題句である。海の中の牡蠣を詠むのに宇宙を持ってきたスケールの大きさと、童話めいた内容に魅かれた。岩場や牡蠣棚で育つ牡蠣はゴツゴツした殻にフジツボや海藻が取り付き、魁偉な岩のようになる。作者はそれを宇宙から落ちてきた屑だと言う。
宇宙屑とは何を指しているのだろうか。宇宙空間には新星爆発で生じた塵や、彗星が放出する塵など大小様々な粒子が漂っているとされる。地球に飛来すれば大気圏で燃えて流れ星となり、燃え尽きずに落ちれば隕石となる。微細な塵もたくさん降り注いでいるという。
地球の表面積の7割が海なので、海底に星屑が広く存在していることは十分考えられる。ゴツゴツした隕石が牡蠣殻となり、その内部で乳白色の牡蠣を育てる。ロマンに満ちた想像だ。
牡蠣はほぼ全てが養殖されている。ホタテの貝殻を刺し連ねた「原盤」を海に沈めて牡蠣の幼生を付着させ、海域を変えながら育てる。ある程度大きくなったら原盤を一個づつロープに挟んで海中に吊り下げて太らせる。養殖技術の発達で大ぶりの牡蠣を安く味わえるようになった。
寒さがつのると牡蠣も甘味を増し、生でも焼いても鍋でもおいしい季節となる。牡蠣筏よりも、海に落ちた星屑を想像しながら食べた方が、味わいが増しそうだ。
(迷 21.12.01.)