道の辺に古りし馬塚翁の忌 嵐田 双歩
道の辺に古りし馬塚翁の忌 嵐田 双歩
『季のことば』
11月の兼題のひとつが「芭蕉忌」。10月に久しぶりの吟行で江戸情緒残る深川に翁の旧跡を訪ね句会をしたばかり。それだけにどんな新発想の句が登場するか、難しさのあるなか興味津々だった。とうぜん先の吟行の第二弾という句も出たし、翁自身にちなんだ句、大きく発想を膨らませた句など多彩であった。「時雨忌」「桃青忌」「翁忌」とも言い、自在に変えて詠める大きな季語だから、句友それぞれが情景と雰囲気に合わせて詠んでいた。好みを言えば「芭蕉忌」「桃青忌」はちょっと堅苦しい気がする。いっぽう「時雨忌」というのが即物的ではなく風趣があって好ましく感じる。
上に掲げた句は芭蕉句を踏まえた一句だ。「みちのべのむくげは馬に喰われけり」が本歌だとおのずと知れる。千葉ニュータウンに住む作者によると、近くに馬塚があるそうな。江戸幕府の牧があった地域で軍馬の放牧を行っていた歴史がある。電車賃がバカ高い北総鉄道に「印西牧の原」という駅があるが、駅名はその名残だろう。ネットで調べると、その昔平氏打倒へ挙兵し自刃した源頼政の首を馬が当地に運んできたという。その名馬を祀る石碑が残っている。作者は散策中にでもその名馬塚を見たのだろうか。手練れの作者ゆえ芭蕉句がすぐさま口をついて出た。「むくげ」ならぬ「馬塚」と季語翁忌が結び付いたとみた。本歌取りの句は付き過ぎては鼻に付くが、「馬に喰われたむくげ」と「古びた馬塚」はちょうどよい距離感を保っていると思うのだが。
(葉 2…