河豚のひれ青き炎の酒の中 徳永 木葉
河豚のひれ青き炎の酒の中 徳永 木葉
『この一句』
冬になると河豚刺や河豚鍋(関西では、てっさ、てっちり)が恋しくなる。お酒はひれ酒が定番だ。そのひれ酒、そもそもは、戦後の添加物混じりの不味い酒を美味しく飲む方法として生まれたという。漁師が熱燗を焼き魚の鰭でかき混ぜたら、意外に旨かったのが始まり、などの話も伝わっている。まあなにしろ、昔は二級酒を特級酒なみに変えてくれるとかで重宝がられたそうだが、今ではそういう意味合いはなくなって、ふぐ料理には付き物の独特なお酒として楽しまれている。
炙った河豚の鰭を普通の燗酒よりもっと熱々にした酒に入れ、蓋をする。飲む前に蓋を取ってマッチで火をつけアルコールを飛ばす。暗くしないと分からないような青い炎が立ち上る。こうすることで、マイルドな味になるそうだ。飲み終わったら、鰭の風味が残っている内に「つぎ酒」をもらう。〝イベント〟というか〝儀式〟というか、その独特な飲み方も人気の一つだ。
掲句はひれ酒の特徴を巧みに詠んでいる。中七下五と読み下すと確かにその通りなのだが、この言葉の運びはなかなか真似できない。句座には、その臨場感に生唾を飲み込む選者が、筆者も含め何人もいた。実に美味い、もとい、上手い句だ。
(双 21.11.12.)