恋の句を詠むことも無く冬隣  藤野 十三妹

恋の句を詠むことも無く冬隣  藤野 十三妹 『合評会から』(日経俳句会) 百子 なんともさびしいことよ。どんどん詠んでください。どんどん恋をしてください。 定利 来年がありますよ。頑張ってください。 阿猿 恋の季節は終わったという諦観か、もう恋なんかしない宣言か。どちらにしても「冬隣」の季語がしっくりくる。           *       *       *  一見、寂しそうな句に見えるが、実はそうではない。こう詠んで、自分自身をからかう余裕のうかがえる句である。  風の便りでは近頃体調がもう一つで、あまり出歩くことをしなくなったということだが、この作者の精神力の強靭なることは衆目の一致するところである。独特の語り口によって相手を手繰り寄せてしまう話術。若き頃コピーライターとして鳴らした、時に突拍子もない言葉遣いによって読者を引き込む文章術。それらは今以って衰えを見せていない。  この句にしても、“半分ホント”といったところなのではないか。確かにまともに恋歌を詠むことは無くなったかも知れないが、心のうちには烈々たる火を燃やし続けているのだ。いつまでも心の元気なおバアチャンの面目躍如たる句である。 (水 21.11.01.)

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