萩すすき揃へて待てり芭蕉像 今泉 而云
萩すすき揃へて待てり芭蕉像 今泉 而云
『この一句』
緊急事態宣言の解除を受け、10月中旬に深川の芭蕉旧跡をたどる吟行を催した。番町喜楽会のメンバーを中心に14人が参加、久々の吟行に心も足取りも軽く晩秋の下町を巡った。掲句はその時の句で、吟行の目玉スポットのひとつ「芭蕉庵史跡展望庭園」で詠まれたもの。
庭園は墨田川河畔の小高い丘の上にある。山寺をイメージしたという階段を登ると、蛙が飛び込んだ古池を模した小さな池があり、一角には芭蕉の座像が川を向いて設置されている。階段下には薄が伸び、池の脇に植えられた赤萩が花を散らしていた。掲句はその情景を写したものだが、奥の細道にある芭蕉の句「しをらしき名や小松吹く萩薄」を踏まえた、一種の本歌取りの句と読んだ。芭蕉吟行にふさわしい機知に富んだ句と思い、点を入れた。
芭蕉は奥の細道の旅で加賀の小松に立ち寄った際、一泊の予定を地元の俳人に引き留められて三泊している。神社仏閣を訪ねて連句を巻き、いくつか句を残した。萩薄の句は、地名の小松を織り込んだ挨拶句で、芭蕉が小松の土地と人に少なからぬ好意を抱いたことを示している。
作者は俳句の大先達であり、萩と薄を見てすぐに芭蕉の句が浮かんだに違いない。芭蕉が下五に置いた萩薄を、上五に置いて「揃へて待てり芭蕉像」と受ける。時空を超えた言葉のリレーのようにも思え、さらに趣が深まった。
(迷 21.10.21.)