城仰ぐ町縦横に秋の水      中村 迷哲

城仰ぐ町縦横に秋の水      中村 迷哲 『この一句』  どこの城下町を詠んだのだろうかと、まず思う。読み手にはそれぞれのイメージが浮かぶ。町なかを流れる水の城下町といえば萩、津和野、柳川、松江などがあげられる。いや、水の都大阪だって城を見上げながら濠を行く遊覧船がある。この詮索は無用かもしれない。固有名詞を入れてイメージを鮮明にするのも一つ。いっぽう読み手の想像に任せるのももう一つの手だ。ケースバイケースと言ってしまえばそれまでだが、手あかのついた固有名詞なら陳腐の謗りをまぬかれない。この句は後者の採用で成功したのではないか。最初、松江城を思ったのだが、「町縦横に」とあるから武家町を掘割や用水路が縦横に流れる萩、津和野のいずれかだろうかと考え直した。もっとも両方とも城に石垣しか残っていないので、城跡を見上げたのだとなる。  いい景色である。城(跡)を見上げれば掘割の水が静かである。あるいは網の目に張り巡らされた用水路に秋の水が潺湲と流れている。筆者が思うに「秋の水」の句は繊細でむずかしい。暑くもなく寒くもない秋の気配を水の変化で捉えなければならないからだ。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかぬる」の自然観と似ている。城と濠の水か、町割りの用水路の水か、どっちを想起すべきかはさておき、景のイメージと繊細さをつないだ一句と思える。(葉 21.10.18.)

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