晩酌の父の笑顔や土瓶蒸し 前島 幻水
晩酌の父の笑顔や土瓶蒸し 前島 幻水
『合評会から』(番町喜楽会)
てる夫 父親の酒の相手をしたことがありません。あったらよかったなぁと、思い出させてくれた句です。
白山 兄弟六人もいたからか、母親と父親だけが松茸の土瓶蒸しでした(笑)。思い出しました。
満智 お酒と好物のごちそうで機嫌のよいお父さんを愛情込めて詠んだ句でしょうか。父親の機嫌が何よりも優先される昭和の家族が懐かしいわけではありませんが、亡くなってしまえば、あんなに簡単に喜んでくれるならもっともっと喜ばしてあげたかったと思ったり。個人的にいろいろな感情を引き起こされた句です。
* * *
一家団欒の姿を詠んで、ほのぼのとした気分が伝わって来る。満智さんの言われるように、昔の家庭は何よりも大黒柱の父親の存在が大きかった。
晩御飯の御膳の正面にでんと座ったお父さんが、時たま難しい顔でむっつりしていたりすると、一家中が暗い気分になってしまう。しかし、そんなことは稀で、お父さんは仕事でなにか難しいことがあっても家族の前ではおくびにも出さず、ニコニコ笑いながらいろんな話をしてくれたりする。そうすると、お母さんも子どもたちもとても楽しくなるのだった。
今や一家揃って晩御飯の膳を囲む家など、どれほどあるのだろうか。お父さんの権威は地に落ち、夜遅く帰って、冷えたおかずをチンして、「独りしずかに晩酌」が相場となっている。
(水 21.10.15.)