懇ろに艇庫締めをり水の秋 嵐田 双歩
懇ろに艇庫締めをり水の秋 嵐田 双歩
『合評会から』(番町喜楽会)
而云 シーズンの終わりに、一年の感謝をこめて懇ろに艇庫を閉めるのだと思って採ったのだけど、よく考えればまだまだシーズン途中ですね。
可升 いつも中川に浮かぶボートを眺めていて、まわりにたくさん艇庫もあるので、この句を採らないわけには行きません。
青水 上五の措辞が心地よい。季語とマッチしている。練習が終わり入念に手入れした練習艇を格納した後の静けさが伝わってくる。
水牛 もう少し秋の深まった頃の季語の方が良いなと思いました。
双歩(作者)たしかに「冬隣」くらいの季語の方がいいかもしれませんね。
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季題「秋の水」に投じられた句には、どうしても季語と重なる水の景がまといつく。致し方ないといえばそうだが、この句は大学ボート部の「艇庫」という珍しい場所をもってきた。春から夏と一生懸命練習に励んだ学生らの根城でもある。もちろん巧い句であると同時に水の景から少し離れたのがよく、票を集めたのではないだろうか。ボート競技は五輪もあったし、元東大ボート部主将が今回大臣になった話題性もある(これは後講釈)。季語がちょっと早いという評もうなずけるが、筆者は場所と動作が妙となって「秋の水」の句だと感じた。
(葉 21.10.14.)