静かなり白磁の皿の黒葡萄 藤野 十三妹
静かなり白磁の皿の黒葡萄 藤野 十三妹
『合評会から』(日経俳句会)
ヲブラダ 静物画の情景に、「静かなり」とあえて表現されると、凛とした気持になります。
守 モノクロームの世界、静謐感が伝わってきます。実景なのか静止画を見ながら詠まれたのか。
ゆり 「静物画」そのものだとは思うんですが、絵にも、詩にもなるってことですね。巨峰を前にすると、少し気構えてしまいます。
定利 中七、下五はすごくいい。「静かなり」は結果です。結果は云わないで、何かほかのことを……。
* * *
まさに額縁に納まったような句である。白い皿に大きな黒い葡萄が一房載っている、ということを詠んだだけである。しかし、白と黒の鮮烈な対比が読者の脳裏にくっきりと刻まれ、葡萄の存在感がありありと浮かび上がってくる。物音の全くしない空間の白磁と黒葡萄。それを「静かなり」とあえて言い切った。
失礼を省みず言えば、この作者は人を驚かすような奇矯な句を詠んで、そのとおり皆が驚けばしてやったりと快哉を叫ぶといったところがある。それが一転、こうした正当派の格調の高い句を投じる。しかし、こうして褒めると、これまた「大向うを唸らせるのなんぞ至極簡単なのよ」と、大好きなお酒を呷りつつ呵々大笑するに違いない。
(水 21.10.07.)