砂かぶり和装のママの桔梗柄 杉山 三薬
砂かぶり和装のママの桔梗柄 杉山 三薬
『季のことば』
テレビで大相撲中継を見ていると、土俵に近い砂かぶり席や桟敷席に和服姿の美人がよく映っている。大相撲と縁の深い花柳界の人かなと思っていたら、この句を読んで銀座ありたりのママと分かった。確かに今どきの若い関取は、待合よりもカラオケ設備の整ったクラブやスナックを好みそうだ。開催場所は違っても、和装の美人を見ない日はない。大阪なら北新地のママ、福岡なら中州のママが姸を競っている訳だ。
土俵に花を添える存在を面白く詠んだ句だが、はて季語は何だろう。砂かぶりは土俵のすぐ下の席で、取り組み中に砂を浴びることもあるため、こう呼ばれる。水牛歳時記によれば、相撲は奈良・平安時代に宮中行事として陰暦七月(初秋)に行われたことから秋の季語になっている。宮相撲、草相撲、勝相撲、相撲取、土俵なども同様に秋の季語として扱われる。ただ砂かぶりは土俵下だが土俵そのものではなく、やや無理がある。
秋の七草のひとつである桔梗は堂々たる秋の季語である。しかし詠まれているのは「桔梗柄」の着物であり、これも決め手を欠く。作者の解説によれば「砂かぶりが季語になり得るか少し悩んで、ママに桔梗柄を着てもらって季節感を出した」という。いわば「合わせ技一本」の季語ということになるが、細かいことを言わずにテレビ桟敷で秋場所の熱戦と、砂かぶりのママを鑑賞しましょう。
(迷 21.09.24.)