薄紅を武骨に齧る新生姜     今泉 而云

薄紅を武骨に齧る新生姜     今泉 而云 『季のことば』  実りの秋は様々な作物が収穫され、初物が食卓にのぼる。新米をはじめ、新大豆、新胡麻、新蕎麦、新酒など「新」のつく秋の季語は多い。新生姜もそのひとつ。生姜は春に植え付けて、夏から秋に収穫する。出回りの頃の新生姜は繊維が柔らかく、辛さも控えめで、いろんな料理で食卓に登場する。秋到来を告げる味覚の一つである。  年を越したひね生姜は濃い黄色だが、新生姜は白っぽく、付け根に赤みがあり、緑の葉とのコントラストが鮮やかである。掲句はその新生姜を「薄紅」と表現する。嫋やかな女性が白い肌を染めているかの如き新生姜を、武骨な(男が)齧っているのである。薄紅と武骨の言葉の組合せが、嫋やかさと荒々しさのイメージの対比を生み、句の面白みとなっている。  新生姜のレシピを検索すると、甘酢漬けからシロップ、天ぷら、きんぴら、佃煮などたくさん出てくる。しかし水洗いしたものを皿にどんと盛り、味噌でも付けて丸齧りする食べ方が、一番おいしく、旬を感じられるように思う。  作者の自句自解によれば、句会の仲間と久しぶりに飲んだ時の句という。時節柄、感染対策のしっかりした安心安全な店を探し、昼間に集まった。柔道部出身者の句会なので、「武骨」というのが話の落ちだが、気の置けない句友との弾む会話と生姜を齧る音が聞こえて来そうだ。 (迷 21.09.15.)

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