すれ違い日陰譲りて残暑かな 荻野 雅史
すれ違い日陰譲りて残暑かな 荻野 雅史
『合評会から』(日経俳句会)
昌魚 残暑の日の街の様子が眼に浮びます。作者の優しさに感心しながら。
静舟 暑さの中にも礼儀あり?奥ゆかしき日本人。
二堂 暑い日は日陰を歩く。しかし人とすれ違うと日陰を譲り合う。日本人のいいところだ。
ヲブラダ ちゃんと譲れる人間になりたいです。
芳之 日陰を譲るとはすてきな方です。我先に日陰を渡り歩く自分が恥ずかしくなりました。
ゆり 暑さの峠を越えて、ちょっと余裕がでてきたのでしょうか。さりげなくて素敵です。
美千代 言葉にはあらわさなくても優しい気づかいが伝わります。残暑も爽やかに感じます。
* * *
残暑の街角で、すれ違った人にさりげなく日陰のある側を譲る。その奥ゆかしさに感じ入った人が多く、句会で高点を得た。残暑の句でありながら、涼風の通り抜ける心地がする。
「江戸しぐさ」という言葉がある。江戸庶民の日常マナーを言葉遣いや所作で表したものとされる。雨の日のすれ違いで相手が濡れないよう傘を外側に傾ける「傘かしげ」や、込み合った場所で少しづつ詰める「こぶし浮かせ」などが代表的なものだ。後世の捏造説もあるが、日本人のメンタリティーに響くものがある。句会では若手に属する作者が詠んだ思いやりの心。江戸しぐさの存在を認め、「日陰ゆずり」を加えたくなった。
(迷 21.08.30.)