扁額の傾きしまま夏座敷     高井 百子

扁額の傾きしまま夏座敷     高井 百子 『この一句』  漢字辞典によると、扁額の「扁」は、戸に冊(書き物)を合わせ、門戸に署したる文の意とある。また「平たい」という意味もあり(扁平足など)、一般的に扁額は、神社仏閣などの高い所に掲げられた額を指すことが多い。もっとも『広辞苑』によると、「門戸・室内などにかける細長い額」とあっさりしている。  作者宅の座敷には、立派な扁額が鴨居の上に飾られているのだろう。作者は書道部に属していると聞く。額にはさぞや達筆が認められているに違いない。その額がいつの頃からか傾いたままになっている。踏み台を使って直せばいいのは分かっているが、毎日見ているとさして気にもならず、ついそのままになってしまった。  季語「夏座敷」は、襖を取り払って風通しを良くしたり、簾を掛けたりして夏向きに設えた座敷のこと。エアコンが普及した今では、意味が伝わりにくい季語かもしれない。作者の住む信州では、朝晩は爽やかな風が渡って「夏座敷」そのものなのだろう。和室に通された客が外の景色を愛でていると、ふと室内の扁額が目に入った。何て書いてあるのだろう。このくらい読める素養が欲しいな。などと眺めていたが、やはり傾きが気になり出した……。  作者によると、帰省した息子さんが直してくれたそうだ。 (双 21.08.29.)

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