角取れぬそれも人生冷奴     加藤 明生

角取れぬそれも人生冷奴     加藤 明生 『季のことば』  豆腐ほど日本人にあまねく好まれている食材はないだろう。中国から持ち帰ったのは遣唐使とも鎌倉時代の帰化僧ともされるが、江戸時代には庶民の常用食材となり、「豆腐百珍」なる料理本も発行されている。暮らしに欠かせない存在であり、俳句にもたくさん詠まれてきた。季語をみても、秋に収穫された大豆で作ったものを「新豆腐」と呼び、寒い冬には「凍豆腐」、「湯豆腐」がある。久保田万太郎の「湯豆腐やいのちの果てのうすあかり」はよく知られている。 「冷奴」は暑い時期によく食べるので夏の季語となる。「北嵯峨の水美しき冷奴」(鈴鹿野風呂)などの例句がある。掲句は食卓の冷奴を見ての感慨を詠む。大ぶりの豆腐を皿にどんと盛ったものか、食べやすく切って氷水に浮かべたものか、いずれにしても豆腐の白さと四角の形は変わらない。作者は角のとがった冷奴を見て、生真面目な生き方を振り返っているのではなかろうか。しかしそんな自分を悔いてはいない。「それも人生」の措辞には、筋を通し小器用に丸まらない生き方を肯定する響きがある。 作者によれば若い頃を省みて読んだ句という。「冷奴は角はあるけど軟らかで、しかも真っ白です。残る人生はかくありたいと思っています」とのコメントも味わい深い。 (迷 21.08.18.)

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