一汁と一菜でよし夏暖簾 和泉田 守
一汁と一菜でよし夏暖簾 和泉田 守
『合評会から』(日経俳句会)
明生 今も麻などの暖簾で暑さをしのいでいる人がいるのだな、と驚きました。しかも手間暇かけず簡単な食事で済ませているとのこと。昭和時代に東芝の会長などを務めた土光敏夫さんのような方だなと思いました。
百子 そうなんです。お料理はなんでもいいのです。ただ夏の夕暮れ、ちょっとおしゃべりをしに、飲みに行きたいだけなんです。行きつけの小料理屋に。
昌魚 もうおうち御飯には飽きました。何でもよろしい!早く暖簾をくぐりたいものです。
弥生 「夏暖簾」のなんと涼し気なことか。しかも一汁一菜のシンプルな食事も美味しそう。最低限の措辞でこんなにも季節感あふれる一句になっていることに感心しました。
てる夫 ずいぶん枯れた心境ですね。胃袋さえ許せば分厚いステーキに生ビールもいけますよ。
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評者がこもごも述べているように、気のおけない小料理屋の情景と受け取った。常連が晩飯を兼ねて立ち寄るといった店である。ほのぼのとして感じの良い句だなと思った。そうしたら、作者の「自句自解」を読んで驚いた。「妻と二人で満一歳の孫娘を預かり、保育園状態。私が夕食を作る機会もぐんと増えましたが、ご飯を炊き味噌汁を作りおかずは一品。上五中七はそんな日常から浮かんできたものですが、季語は何か「食」を連想するものはないかと歳時記をめくり借りてきた塩梅です」と。作句意図と出来上がった句との乖離がこれほど甚だしいのも珍しい。こ…