ウイグルの断種かなしや花柘榴 金田 青水
ウイグルの断種かなしや花柘榴 金田 青水
『季のことば』
医学のあまり進んでいなかった昔、恐ろしい遺伝病を根絶するために「断種」(不妊手術)とか隔離という非人間的なことが行われていた。ハンセン病が代表的なものとして取り上げられることが多い。20世紀まで欧米で盛んに行われ、日本にも伝わった。
もう一つは、これはもう狂信的な行為としか言いようがないが、ナチス・ドイツの「ユダヤ人撲滅」と「黄禍論」である。優良人種に禍をもたらす劣等人種は根絶やしにせねばならないという恐ろしい考えである。
それが今、中国の新彊ウイグル地区で行われているとの話が全世界に伝わって大問題になっている。この地域に住む人たちは漢民族とは異なる歴史文化を持ち、独自の生活スタイルを持っている。だから、時には北京の下す指令に従えぬことも出てくる。それが因となり長年いざこざが絶えなかった。
党中央と北京政府が下した結論は、まつろわぬ種族を絶やすために治安維持法違反などで検挙した人物に対して強制的に不妊手術を行うことだという。そんなことが実際に行われているとは信じられないのだが、今の中国中央政府の姿勢を見ると、もしかしたら本当に行われているのかもと怖気を振るってしまう。権力者は得てして狂信的な振る舞いをする。
子沢山・豊穣のシンボルである花柘榴との取り合わせが、何とも言えない悲しさを醸し出している。時事句の傑作と言えよう。
(水 21.07.23.)