五輪硬貨はじく自販機缶ビール 須藤 光迷
五輪硬貨はじく自販機缶ビール 須藤 光迷
『この一句』
一読し、世相を巧みに映した秀逸な時事句と考え、点を入れた。いま五輪といえば、57年ぶりに開催される東京五輪である。コロナ感染が止まらず、4度目の緊急事態宣言が発令された状況下でも、東京五輪は〝強引に〟開催される。新聞・テレビの世論調査を見ると、国民の大多数は五輪開催で感染が拡大すると心配し、中止か延期を望んでる。
ところが強欲なIOCと強情な菅首相は、専門家や世間の声を聞かず、開催強行に突き進んできた。あげくは無観客である。国民は驚き、あきれ、白けているに違いない。この句からはそんな作者の気持ちが読み取れる。自販機に「はじかれた」五輪硬貨は、国民にそっぽを向かれた東京五輪と菅内閣の象徴であろう。さらに五輪硬貨を「五輪効果」と読み替えれば、国立競技場のビール販売をはじめ、泡と消えた経済効果にも思いが至る。ジャーナリスト出身の作者の時事感覚が光る句といえる。
ところで東京五輪の記念硬貨は既に2018年11月から発行されている。額面100円の白銅貨は銀行で引き換えできた。作者はたまたま持っていた五輪硬貨でジュースを買おうとして使えなかったという。全国に三百数十万台ある自販機は改修の手間が大変なので、五輪に限らず記念硬貨の類はどれも使用できない。ただ過去の五輪硬貨は額面以上のプレミアムが付いて取引されている。今回の異例・異常な五輪の象徴は果たしてどんな価値を生むのであろうか。
(迷 21.07.13.)