半夏生友より届く吟醸酒 堤 てる夫
半夏生友より届く吟醸酒 堤 てる夫
『季のことば』
「半夏生」とは暦の七十二候の一つで、夏至から11日目に当たる。半夏(はんげ)というサトイモ科の多年草で山蔭の湿地や時には畑にも生える雑草。球根に薬効成分があり、吐気を抑えたり、去痰、つわりを軽くするものとして漢方薬の原料になっている。
この宿根草が伸びるのが夏場で、蛇が鎌首をもたげたような形の、緑と紫だんだらの花(仏炎苞)を咲かせる。この半夏が生じる頃ということから昔の季節指標である七十二候に取り上げられた。現代暦では7月1日か2日になる。
米作が日本の主産業だった昔は、「田植は半夏生までに終えること」が鉄則だった。のそのそして田植えを遅らせたら実りが半減してしまうとの戒めである。だから農家は暦の「半夏生」とにらめっこしながら、田植えに励み、麦刈りに精を出した。そして、無事に終えた半夏生の五日間は農作業を完全に休み、蛸をはじめ日頃あまり食べられない魚などのご馳走とお酒を楽しんだ。ちょうどこの頃は梅雨の末期であり、植えて間もない早苗が雨水を満々とためた田んぼにしっかり根付くのを見やりながら、今年の豊作を祈った。
この句の作者は農作業はやらないようだが、住まいの周囲は見はるかす田んぼと畑の広がる穀倉地帯。近所のお百姓が植えた田畑を見渡し、「おお、田植えも滞りなく済んだか」と、ゆったりした気分になっている。タイミング良く、酒友から吟醸酒が届いた。それを傍らにでんと据えて、これぞまさに「殿様気分」というものであろう。
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