梅雨明けは笑顔広がる接種かな 石丸 雅博
梅雨明けは笑顔広がる接種かな 石丸 雅博
『季のことば』
掲句を見たとたん、上五で思考が止まった。関東では梅雨入りして間もなくの時期に「梅雨明け」を詠んでいる。そして下五でポンと「接種かな」が現れた。二度目のワクチン注射を終えた人々が出始めており、接種は当初の予想よりも順調に行きそうではあるが、句の順序がどうもすっきりしない。「笑顔広がる」は「梅雨明け」と「接種」のどちらに掛かるのだろうか。
数日前、東京・大手町に出かけた。目的のビルに行くには東西線竹橋駅で降りるのが近い。地下鉄駅から地上に出ると、大勢の人々が列をなし、ぞろぞろと歩いている。いつもは歩行者の少ない辺りなのだが、理由はすぐに分かった。その先に立つ大きな茶色のビルが、コロナワクチンの「自衛隊大規模接種センター」の所在地であった。
道路に立つ案内の人に接種者の数などを聞くと「初めは凄かったが、このところ減ってきた」とのこと。ワクチンの一回目を終えた人が増えてきたようで、今は焦ってワクチン接種を求める状況は過ぎている。梅雨明けの頃は笑顔の人が増えているはず。「梅雨明け」と「接種」と「笑顔」が一つに繋がった。俳句はやはり理屈を述べるものではないようである。
(恂 21.07.11.)