自粛せずもう我慢せずさくらんぼ  横井定利

自粛せずもう我慢せずさくらんぼ  横井定利 『季のことば』  さくらんぼとは不思議な果物である。それほど美味いものではない。見栄えや甘みや旨味から言えば、さくらんぼなど足元にも及ばない果物はたくさんある。  だけど、五月になって果物店のショーウインドウに、化粧箱にちんまり納まったさくらんぼを見ると、初夏だなあと浮き立つ気分になる。黄色地に紅を掛け輝くところは宝石である。こういう出始めのさくらんぼは値段も宝石並みだ。やがて六月の出盛りになるとスーパーや近所の八百屋にも出回り、産地の果樹園では「さくらんぼ狩り」も行われる。この旬のさくらんぼは甘味も増し、酸味との兼ね合いも良い。 さくらんぼのもう一つの不思議さは、食べ始めるとついついくせになって摘んでしまうことだ。さくらんぼ狩りで「一時間食べ放題」などと言われると、いろいろな木の食べ比べなどで、つい量を過ごし、時には腹をこわしてしまう。アレルギー症状を持つ人は唇が腫れたりすることがある。さくらんぼはビタミンA,Cが豊富で、リン、カルシウム、鉄分も含有、利尿、むくみ解消、美肌効果など有益なところもあるのだが、下剤にも用いられるソルビトールをかなり含んでいるから、バカ食いするとPPになってしまう。いくら食べ放題と言われても30粒くらいに止めておいたほうがよさそうだ。それでも帰りの観光バスはおなら合戦になったりする。  この句はコロナ禍による「自粛」と「さくらんぼ」の取り合わせが面白く、ついそんなことを連想した。とんでもない読み間違いだった…

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