筒抜けの女湯の声夏来る 玉田 春陽子
筒抜けの女湯の声夏来る 玉田 春陽子
『この一句』
ユーモアに富む愉快な句である。女湯から聞こえてくる賑やかな声で夏到来を感じさせる鮮やかな手腕で、番町喜楽会の6月例会で最高点を得た。
銭湯は天井が高く声が響く。風呂に入ると心が伸びやかになり話も弾む。ましておしゃべり好きな女性が集う女湯であれば、いろんな声が「筒抜け」に響き渡るであろう。筒抜けの措辞からは広々とした銭湯の開放感と、リラックスした女性たちの解放感が伝わる。夏という季節が持つ解放感とまさに響き合っている。飾らないあけすけな会話が聞こえてきそうな臨場感がある。
庶民の暮らしを支えてきた銭湯は、内風呂の普及とともに急減している。厚労省や東京都の資料によれば、昭和43年に都内に2,687軒あった銭湯は、令和2年には510軒まで減っている。その一方でスーパー銭湯など大型の温浴施設は一貫して増えており、これらを含めた施設の総数は2万5,000軒前後で横ばいという。大きな風呂でゆったりと心身をほぐしたいというのは、人間の根源的な願望のようだ。銭湯が減って、南こうせつの「神田川」の世界は遠くなるばかりだが、施設は変わっても女湯の賑やかなおしゃべりが絶える心配はなさそうだ。
(迷 21.06.27.)