鮎宿の画鋲でとめし時刻表 嵐田 双歩
鮎宿の画鋲でとめし時刻表 嵐田 双歩
『合評会から』(日経俳句会合同句会)
方円 簡素な鮎宿の情景が浮かびます。帰りの時間を気にしながら釣るのでしょう。
反平 阿川弘之に『鮎の宿』なる随筆集がありました。もう古びてしまって黄色くなった時刻表が雰囲気を出している句です。
雅史 色褪せた時刻表が目に留まったその宿は、人情味あふれるところのような気がします。
春陽子 画鋲でとめられた時刻表が、馴染みの宿であること、主人が鮎釣りの名人であること、優しい女将がいること、などを教えてくれます。
迷哲 鮎宿には古びた民宿が多いようです。「画鋲でとめし」に生活実感があります。
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この句は実際に見た光景を詠んだのか、あるいは頭の中で想像した光景か、それはわからない。いずれにしても、古びた時刻表を見つけたことが、この句の手柄である。それを季語を含む鮎宿と取合せたこと、さらには、時刻表をとめている画鋲に目をつけたことが素晴らしい。鮎宿の帳場付近の映像が読み手にリアルに伝わってくるだけでなく、宿そのものの外観や雰囲気までが見えてきそうである。過不足がなく、表現の手堅さを感じさせる一句である。
(可 21.06.24.)