夕闇の包み忘れし白牡丹    玉田 春陽子

夕闇の包み忘れし白牡丹    玉田 春陽子 『この一句』  一読して「包み忘れし」という措辞に魅せられた。夕闇に浮かぶ白牡丹を巧みに表現し、場面が鮮やかに浮かんでくる。番町喜楽会の5月例会で群を抜く高点を得た。  白牡丹の句はその白さや姿をどう表現するかがポイントになる。例句を見ると高浜虚子の「白牡丹といふといへども紅ほのか」や杉山杉風の「飛ぶ胡蝶まぎれて失せし白牡丹」などがある。  掲句は白牡丹を夕闇の中に置くことで、白さを際立たせている。「包み忘れし」という詩的な表現によって、他の花が闇に沈む中で、白牡丹の白だけが浮かび上がってくる。夕闇と白牡丹のコントラストが鮮やかで、明暗のくっきりした初夏の夕暮の気配も感じられる。 夕闇を擬人化した表現は、好き嫌いが分かれるかも知れないが、句評を見ると「きれいで優しい表現。牡丹の白が際立ってくる(水馬)」、「包み忘れしという表現がうまい(満智)」などそこを前向きに評価する声が多い。 作者の自句自解によれば、熊谷の実家の近くの寺まで出かけ行って詠んだ句という。本人は吟行の大切さを改めて実感したと語るが、コロナ禍の中をわざわざ遠出して得た実作と知ると、句の趣きが一段と深まる。                          (迷 21.05.27.)

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