押し花となりし車道の椿かな 斉藤 早苗
押し花となりし車道の椿かな 斉藤 早苗
『この一句』
椿の落花を詠んだ句は数多い。俳句を詠まない人でも知っている「赤い椿白い椿と落ちにけり」という河東碧梧桐の句をはじめとして、落椿は印象的なものだから、誰もが詠みたくなるのだろう。
しかし、落椿が押し花になったという句は、恐らくこれが初めてではなかろうか。選句表にこの句を見つけた時には「面白いな」と丸印をつけながら、規定選句数からはみ出してしまったため、最終的には取らなかった。しかし、改めて読んでみると、この突拍子も無い情景が何とも破天荒だなあと思う。常識的な俳句作りの軌道など始めから問題にしない詠み方である。このユニークなところを何故汲み取れなかったのかと後悔している。
日本古来の藪椿は五弁一重だが、乙女椿をはじめ、花弁が幾重にも折り重なり、ぼってりと咲く八重咲き、千重咲きも多い。それが散る時には、はらはらと散らず、塊のままぼたんと落ちる。まるで首が切り落とされるような感じでもあるので、江戸時代には武家には椿を嫌う向きがあったという。
まあ首がポロリはともかく、椿は押し花にはし難い。そういう一般常識を覆して、「車道で押し花になっている」と言ってのけたところに、この句の面白さがある。
(水 21.05.12)