天竜の風に吹かれて糸柳 宇野木 敦子
天竜の風に吹かれて糸柳 宇野木 敦子
『合評会から』(三四郎句会)
圭子 お寺の天井に描かれている竜が風を起こすような、ダイナミックな感じを受けました。
而云 「天竜(川)」という固有名詞によって景色が浮かび、風も感じる。
諭 天竜川沿いの糸柳(しだれ柳)の風景は、壮大な水墨画を思わせます。
豊生 激流も一睡の風、と受け流す糸柳。
宇野木 (作者) 天竜川の土手に糸柳が立っていて、風に吹かれ、枝葉が右に左に大きく流れるときの様子です。
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「天竜」という固有名詞のパワーによって人それぞれ、長野県の中央を貫く大河と堤に立つ柳の様子を思い浮かべるはずだ。例えば伊那辺りの急流、下流域の悠然たる流れ。地域ごとに変わる川の流れを、句の鑑賞者がそれぞれに異なる状況を思い描いても構わない。それが俳句に許される解釈の幅の広さ、と言えるのではないだろうか。
作者は第二次大戦中、伊那に疎開していた。中学生の頃、東京に戻っているが、句作りとなると何かにつけて、幼い頃の懐かしい風景や生活が頭に浮かんでくるらしい。「また伊那の句か」「彼女の句だな」などと選び手に思わせてしまうが、遠慮することはない。「それが私の句の特徴」くらいに割り切ったらどうだろう。(恂 21.05.10.)