ため池を姿見にして若柳 堤 てる夫
ため池を姿見にして若柳 堤 てる夫
『この一句』
作者の住む信州塩田平には、農業用のため池が点在する。句材を求めて近隣をよく散策する作者は、ため池のほとりで柳の若木を見つけ、この句を得たのではないか。ひょろりと伸びた柳の木が、緑の芽をつけた枝を伸ばし、水面に影を映している。あたかも柳が人間の如く池にわが身を映し、身を整えているように見えたのであろう。
春爛漫の光景がくっきりと浮かび、池を吹き渡る風さえ感じられる爽やかな句であり、日経俳句会の4月例会で最高点を得た。選者の句評を読むと「江戸の美人画を見るようだ」(ヲブラダ)とか、「若い女性の仕草を連想させる」(弥生)など、女性をイメージした人が多かった。
柳眉や柳腰の言葉が示すように、柳は女性的なものとして捉えられてきた。柳の下に出る幽霊もなべて女性である。曲がりくねった幹が女性の肢体を思わせ、風にそよぐ枝は細い腕とも揺れる髪とも見えるからであろう。
水牛歳時記によれば、柳は雌雄異株で日本の枝垂れ柳はほとんどが雄の木との説があるという。奈良時代に中国からもたらされた枝垂れ柳が雄で、その枝が挿し木されて次から次へと日本中に広まったからだということらしい。真偽は不明なようだが、なよなよしていても雄の木だとすると、さて句の解釈も違ってくる?
(迷 21.05.02.)