ライオンの檻を自由に雀の子 田中 白山
ライオンの檻を自由に雀の子 田中 白山
『この一句』
読めばすぐに場面が浮かび、ほのぼのとした気分になる句である。作者は句作にあたっては極力自分の眼で確かめるという現場主義で知られる。おそらく動物園で実際に目にした光景であろう。ライオンが寝そべっている檻に、好奇心旺盛な子雀が入り込み、恐れげもなく歩き回っている。「食べられやしないか」と、ちょっとスリルを感じる場面なだけに、雀の子の冒険心や愛らしさが一層印象づけられる。
福音館から出ている「こすずめのぼうけん」という絵本がある。イギリスの児童文学者の作品を石井桃子さんが翻訳したもので、一人で飛べるようになった子雀が遠くまで行き、泊まるところもなく様々な体験をして巣に帰るまでの物語だ。試練に立ち向かう子雀と、信じて待つ母雀の姿が感動を呼ぶ。洋の東西を問わず、雀の子は冒険好きで目を離すと思いがけない所まで飛んでゆくのだろう。
掲句はそんな雀の子の行動を、ドラマチックな物語仕立てで詠んでいる。最初に「ライオンの檻」という大きくて怖いものを提示し、次に「自由に」で何だろうと思わせ、最後に小さくて可愛い「雀の子」のアップになって完結する。わずか十七文字だが、「こすずめのぼうけん」に劣らない起伏に富んだ冒険物語ではなかろうか。
(迷 21.04.16.)